vermilion::text F37 構成中

無の商店から上がること七階、階段を上がると、真っ白い空間に出た。
振り向くと、暗い階段が上と下に続いている。
前を向くと、知識の部屋と書かれたプレーとが浮いている。
右を見ると熱帯雨林の部屋、左を見ると豪雪地帯と書かれたプレートが浮いていた。
私はそれぞれの扉を見比べる。三つの扉には特に特徴がなく同じように見えた。熱帯も豪雪も嫌だ。私は正面の知識の部屋を選んだ。
ガチャリ、ノブを回しドアを引く。
あらゆる所に本があった。両側の壁に作りつけられた本棚は頭上が見えないほど伸び、すべての棚には書籍がぎっちり押し込められている。
扇形に広がる書架も遙かに高く、すべて本がつまっている。その手前の空間にも整理されていないのか、本が平たく並べて重ねられていた。とてもではないが近づきたくもなかった。
私は書架の方に歩いていく。並んだ書籍の間を抜け、両側に並ぶ本の背表紙を眺めながら歩く。糸巻き蝸牛の仕様書、空から魚が降ってくる使い方、大地の裏側の説明書、恒星の上の渡り方、とにかく、なにかの知識を集めた本のようだ。
こうしてたくさんの本の中にいると、本が呼ぶということを体験したことはないだろうか?
私は誘われるように書架を進み、ふと立ち止まる。下から三段目。スピンドルコスモとカオスブリッジの変換法と、クリルタイの評決方法とスキヤップの発生の相関関係におけるジッヘルング報告書の間に、挟まれた本が目に付いた。
夢と希望と殺意の固まり、それがその本の題名だった。しっかりした、角張った造りの重厚そうな本だった。
それを手にしたとたん、私はここにいるのが、いけないような気持に囚われた。本たちが、痛むから、湿気た人間は早く出て行けと言っているように感じた。
私は促されるようにきびすを返すと、出口へ向かう。
閉店の図書館から追い出されるように私はその部屋を出た。
私は、真っ白な部屋に立ち、その本をひと通り眺める。木のように固く絞まった革の装丁でずしりと重たい。
何が書いてあるのだろうと、その本を広げた。
痣、拳、鉄の味、汚物、成績、虐め、登校拒否、薬物依存、自殺未遂。
本を開いたとたんに、さまざまの文字が一度に飛び込んで来た。
目がくらむような不快感と吐き気と動悸、手が振るえ、汗が手のひらからしたたり落ち始めた。
膝がゴムのようになり力が入らず、立っていられず、しゃがみ込む。
頭の中に、vermilionの向こうの世界のことが溢れてきた。
思い出せなかった記憶、思い出したくもない気持、忘れたい思い出。
気が付くと自分は、頭を床にたたきつけていた。
ゴンゴンとすごい衝撃は感じる。痛みは感じない、気持がほっとする、もっとやれ、もっと強く、壊れるまで。疲れて、手にしていた固い物で、頭を叩く。金属のような、それでもって何度も打ち付ける。
さっき目にした文字の残像が輪郭を鋭くして見えてくる。
あんな本を見るから、目をつぶせ。本の背で、眼球を狙った。温かい液体と弾力のある感触が顔を流れる。もっと!もっとだ徹底的に。本を床に立て打ち付けた。
彼は前のめりに倒れた。
真っ白い部屋は、鮮血が飛び散っていた。倒れ込んだ男の頭の下には血みどろのの本があった。血を吸い、さらに血溜まりは広がっていった。
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