vermilion::text F25 構成中

「あ、ねえ!あなた、そう!そこのあなたよ」
突然声を掛けられた。
「こっち!後ろよ、後ろ!」
私は後ろを振り向いた。と、ドサッと、キャンパス地の巨大なトートバックを投げつけられた。
「うわっ!な、なんですかいきなり!」
バッグを抱きしめて、後ろへ一、二歩よろける。ずしりと重いバッグから、油くさい匂いが鼻を突いた。
「なんですかこれは?」
「悪いんだけど、手伝ってくださらない?」
くださらないって、もうすでに持たされているし。
「ええ、いいですけれど」
「助かったわ、じゃ時間がないの急ぎましょう」
と先を進んで歩き出した。
「はい……」
私は改めてその人物を上から下まで見渡した。小柄の女性だった。年は若いのか、結構年しているのか、小柄なのでわからない。
「絵描きの方ですか?」
「まあね」
「絵を描きに行く旅行ですか?」
「いいえ、引っ越しよ。60階の学園の講師になるの」
「60階ですか!?」
「ああ、大丈夫よ、60階まで運んでなんて言わないわよ。昇降機まで」
「昇降機なんてあるんですか?」
「あるわよ。35階も階段を上がるなんてうんざり。学園から切符ももらったし、時間が迫ってるの」
「ああ、なるほど」
なんとなく事情は飲み込めた。どうやらこの世界のエレベーターは人数制限があるようだ。35階と言うことはこの世界は25階なのか。
「ああ!もう来てる!先に行って止めておくから、お願いね」
というと彼女は「まってー」と手を振りながらかけだした。
私は、息を切らせながら、絵の道具やカンバスが入ったバックを抱えて後を追った。
「ありがとう。ああそうだ、もう一つ頼みを聞いてくれないかしら?」
「ええいいですよ、二つでも三つでも四つでも」
彼女はバックから、包まれた板状の物を取り出した。
「これなんだけど、マチネー通りのエマに届けてほしいの。住所は、ここだから」
と彼女は紙に住所を書き付けると荷物と共に手渡した。
「マチネー通りのエマですね?」
「ええ、感謝のかわり、と言っておいて」
「わかりました」
「ありがとう。赤きイスカの学園よ。機会があったら寄ってみて。クビになってなかったらいると思うわ」
「ええそのときには!」
ガタガタと引っかかりながらドアは閉まった。
「ああそうそう、あたしはアリサ」ドアの隙間から聞こえた。
   ☆
「エマさんですか?」
「そうだけど、あんた誰だい?」
相手はうさんくさそうに私を上から下まで見た。
「アリサさんから届け物を預かってきました」
「アリサって、ああ、あの子」
「ええ、これなんですけど」
と包みを差し出す。
「なんだろうね、無の商店に行けばなんでも手にはいるって言うのに」
無の商店、なんとなくその言葉に聞き覚えがあって、しばらく考えていて、ボルゾイ爺さんの店が有の商店だったのを思い出した。
「確かに、これは手に入らないわね」
エマはアリサの包みを開けて呟いていた。
私は興味を惹かれて絵をのぞき込む。
それはエマと男性が寄り添った絵だった。
「あたしの死んだ亭主さ」
「そうでしたか」
「悪かったね、お茶も出さずに、狭いけど入っておくれよ」
無の商店のことが気になったので私はおじゃますることにした。
http://d.hatena.ne.jp/hinocha/20030630#1056939871