vermilion::text 外観 

気が付くと、ここにいた。
周囲は細かい砂の漂う砂嵐の砂漠。風はないのに埃のような砂が舞い周囲は灰色の世界に包まれている。
なんで、こんな所に。私は砂の世界に立ちつくし記憶をたどる。
ただの社会人、漫然と仕事をこなし、テレビアニメを見て、感想をネットで書いているだけの人間。
アニメの登場人物が接吻したからと言って騒ぎ、一緒に適当に怒った振りをして唇を奪った架空の人物を叩いてふざけたりしているだけの人間だったのに。
確か徹夜で疲れ気味で、また登場人物が口づけをし、さあまた今日はどんな煽りを書き付けてやろうとパソコンに向かっていた時に、頭に激しい痛みを感じてキーボードの前に額をうずめたことは覚えている。
痛みが激しさを増し脳みそに切り込んで来るのを感じながら、このまま蒲団に潜り込むべきか、我慢していれば、痛みは去っていくか、考えていた。しかし痛みはいっこうに引く気配はなく、脳全体がうずいていた。だめだもう……
そこから記憶はない。寝たのだろう、そうこれは夢だ。夢の中に違いがない。
頭の痛みもない。その記憶自体が夢なのかもしれない。ならば、その前は?自分は誰で何者だろう?
考えたがわからない。やっぱりこれは夢の中なのだ。夢を楽しもう。
それにしてもここはどこだろう。夢にどこもないか。なにかないのだろうか?空を飛ぶとか。その場でジャンプしてみたけれど、身体が浮かぶ感じもない。ただ身体が飛んで、柔らかい砂に足がめり込む。靴の中に砂が入るだけだ。
足を上げて靴をふるう。
なにか見えないかと目を凝らすと、厚い灰色の砂の向こうになにかの建物の影が見えた。霧の中のようだ。
それ以外になにも見えない。そこへ向かうことにした。
こんな時に唄うのは、
「水平線の終わりには、あーあーあー、
虹の橋があるのだろうー
誰もいない、未来の国の……」
なんだか違うな。ええとなんだっけ出だしは。
「ああ、思い出した。
砂の嵐に隠された
バビルの塔に住んでいる
超能力少年 バビル二世
地球の平和を守るため
三つのしもべに命令だ ヤー!」
なんだか盛り上がってきたぞ。
「怪鳥ロプロス 空を飛べ!
ポセイドンは 海を行け!
ロデム変身 地を駆けろ! 」
とか唄いながら砂の大地を建物に向かって歩く。
歩きながら自分の姿を点検する。
学生服も着ていない。
髪の色も金色じゃないし、エスパーっぽく、キンキンに立っていない。
試しに奥歯の中を探ったけど、加速装置のボタンもないようだ。
「ロデーム!」
叫び声は砂に吸い込まれていく。
黒い猫が「にゃにゃにゃにゃにゃー、にゃにゃ」とか鳴きながら、ご主人様、とか近づいてくる様子もない。
だよな。自分ただのアニメオタクだし。
そんなことを思いながら建物に近づいた。
赤い壁の外観の塔、見上げると果てしない高さがあった。すごい、こんな物見たことがない。自分が知っているのは、アルファーラルファー大通りぐらいのものだ。屋上に未来を見通す機械がある果てしないスロープの塔。この塔の上にはなにがあるのだろう。自分はこの塔の上を見るのだろうか、その前にこの夢が目覚めてしまうのか。ガイドの猫人間のク・メルに会うことは出来ないだろうか。
とにかく私は、その塔の入り口に向かった。
http://d.hatena.ne.jp/watercolor/100002
2003/06/28