vermilion::text F17 DarkTrack

http://d.hatena.ne.jp/hinocha/20030424#1051165721
カインを残し私は上への道を目指した。
私にはどうしようも出来ない。私はここを上の道と選んだ。カインは開くことのない飾りの扉を上の道と信じている。それしかない。
扉を開き中へはいると階段だった。後ろで閉めたはずの扉はなぜか消えた。下へ続く階段と上へ続く階段の中間に放り出されたという事だった。あまり照明の当たらない薄暗い階段だった。しかたがない、わたしはこれを選んだのだから。
気を取り直して上へと進む。黙々と直線に続く階段を上った。階段の端は切り立った崖だった。
上の方から争う音が聞こえた。「この道を選んだのはお前だろう」とか、責任をなすり合っているようだ。「見つかったら命がない」とか、「もう何人殺しても同じだ」という声も聞こえる。
不穏な様子を感じ取り私は身を潜めていた。やがて怒号の末に、鈍い音が響き叫び声が闇の下の方へ小さく消えていった。
私は動くことも出来ず、うずくまっていた。
相手の興奮した息づかいがだんだん収まり、静けさが降ってくる。
ふと静寂を破るように風が吹き、いい匂いが漂ってくる。
ズルズルと動く音がした。
薄暗い階段の先で光がさした。
何が起こったんだろうと様子を見ていた。
「お父さん、しらない人がいる」「大丈夫ですか・・・?」「聞こえてますか?」幸福そうな家族の声がした。
私は不吉なものを感じて立上がった。どう声を掛けたものかわからず、とにかく駆け寄ってみた。
しかし、扉は私の目の前で閉ざされた。薄暗い中で確かめると、そこには扉の痕跡など全くなかった。